国語

問題

Aさんの学校では、国語の授業で、「これからの社会で大切なこと」というテーマで選んだ本の内容を紹介することになりました。Aさんのグループが選んだのは、茂木健一郎(もざけんいちろう)氏が書いた『脳と創造性』とういう本の一節です。これを読んで、あとの問いに答えなさい。((1)から(10)は段落につけた番号です。)

(1) 一寸先がどうなるか、なかなか予想することができない現代ではあるが、ただ一つだけ確かなことがある。それは、IT(情報技術)が今後も発達していくだろうということである。

(2) 私が小学生だったのは昭和四十年代だが、当時は電卓さえ珍しかった。計算は、筆算か、そろばんでやるしかなかった。今では、ノートパソコン上の表計算ソフトで、複雑な計算があっという間にできるようになった。単純な足し算、引き算の作業の手間が随分はぶけるようになったのである。コンピュータは単純計算を高速に繰り返す能力や、大量のデータを蓄積する能力においては、すでに人間をはるかに凌駕(りょうが)※するようになってしまった。その一方で、コンピュータには、新しい情報を生み出したり、何かをやろうと意欲したりといった、人間の脳ならばやすやすとできるようなことが全くできない。

(3) コンピュータが発達すればするほど、人間は、コンピュータにはできないこと、すなわち、創造性を発揮することが重要になってくる。変化の激しい現代では、先行きがどのようになるかを見通すのは難しい。それでも、人間一人ひとりの創造性の「市場価値」がさらに高まる傾向が続くことだけは間違いない。ITが、創造性の効果の拡大装置の機能も果たすようになるからである。それがつまりは、人間とコンピュータの共生の論理的必然である。時折、コンピュータの発達により人間性が疎外されるという考え方をする人がいるが、むしろ逆であろう。単純作業から解放されて、いよいよ人間らしい能力の中核に接続することを求められるようになるのである。

(4) 創造性が大切だとういうことは、誰(だれ)でも認めるだろう。その一方で、たいていの人は、創造的であるとは、一握りの天才にのみ許されることだ、と考えているのではないだろうか?天才とまではいなかくても、才能に恵まれなければ、創造的であることはできないと思っているのではないか。

(5) 短い生涯のうちに、たくさんの美しい曲をつくったモーツァルト。流れるように曲想がわいてくる状態の中で、次から次へと傑作をつくった。その作品のクオリティ※の高さは、やはり脅威としかいいようがない。五歳の時に磁石を見て、どうしていつも同じ方向に向いているのだろうと疑問に思ったアインシュタイン。十五歳の時に持った素朴な疑問「光を、光のスピードで追いかけるとどうなるか?」について、十年間しつこく考えて、ついに物理学の革命となった『相対性理論』を完成させた。

(6) このような天才たちの物語に接すると、私たちは、「やはりこの人たちは私たちと違うのだ」と思いがちである。確かに、生み出されたものの価値を考えれば、これらの天才たちのやったことが、特別なことであることは間違いない。その一方で、人間の脳の特性という視点から見れば、これらの「天才たち」のやっていることと、私たちが日常普通にやっていることの間には、本質的な差がないともいえる。天才たちも、普通の人々も、「それまでになかった新しいものを生み出している」という点においてはあまり変わらない。早い話が、コンピュータと普通の人間の脳の差に比べれば、普通の人と「天才」の脳の差など、ほんのわずかなものしかない。

(7) 脳はコンピュータとは異なる。しかし、そもそもコンピュータとの比較は、せいぜいここ数十年から百年の科学技術文明という文脈の中における脳の意味付けにすぎない。脳という臓器の潜在力は、コンピュータとの比較によってだけではとらえきれない。人間の創造性の背後には、広い意味での生命の営みがあり、自然界の法則がある。そのような視点から見れば、天才の脳はもちろんのこと、人間の脳の中で起こっていることもまた自然現象にすぎない。今日、創造性の問題を議論する際には、それが人間だけに備わった特別なものであるという前提から出発するよりも、より広く自然界全体に備わっている傾向の表れとして見た方がよいように思われる。

(8) 人間の創造性の基礎が、自然の中の生命の営みに象徴される組織化原理にあるということを見据えれば、一つはっきりしてくることがある。すなわち、コンピュータにあたらしいものを生み出す能力がないのは、端的に言えば、それが「生きて」はいないからだということである。木から新しい芽が出るように、何か亜tらしいものが生み出される、という意味での創造は、稀(まれ)なことではなく、日常茶飯にどこでも見られる現象である。創造性が生命作用の一つの表れである以上、創造は稀なことではない。むしろ、生きている限り、創造的であることを抑えることができない。

(9) たとえば、ごく普通の取り立ててどいということもない会話も、それがどのように成り立っているかを分析すると、そこには、私たちの脳の秘めている素晴らしい能力が浮かび上がってくる。実際、私たちが日常でかわすすごく簡単な会話も、コンピュータにはとてもマネできないような創造のプロセス※なのである。会話の中の言葉は、その場その場で生み出さなければならない。誰かと会話を交わすとき、あらかじめ何を言うかを決めておくことはできない。相手が言った言葉を受け、臨機応変にその場で適切な言葉を生み出さなければならない。会話を交わしている現場で自然な言葉を発することは、人間の創造性を支える脳の働きなしには不可能なのである。たとえば平凡な会話でも、会話が交わせるということ自体が一つの驚異である。友人との会話に夢中になっている時、私たちは自分でも気付かないうちに、言葉を湯水のように生み出す天才になっているのである。

(10) 私たち人間は、長い進化の過程で、自ら新しいものをつくり出す、素晴らしい創造性の能力を獲得し、受け継いできた。創造性は、単なる知識の問題ではない。創造性はむしろ、人間を含む生物全体が過酷な自然環境の中で生き残るために必死になって見いだしてきた様々な「生きのびる智恵(ちえ)」の一つの表れにすぎない。コンピュータに比べれば、どんな人も、そのいきている現場において創造的である。何だか身も蓋(ふた)もない言い方のようだが、これが、脳の働きを実態に即して見た時に浮かび上がってくる真実である。創造性は、一部の天才の専売特許ではない。新しいものを生み出す能力は、私たち一人一人の中にある。まずそのことに気がつくことから、情報技術の発達によりデジタル情報があふれるようになった時代にふさわしい人間の存在能力の発揮のスタイルの模索が始まるのである。

(茂木健一郎著『脳と創造性』による。一部略がある。)

※凌駕(りょうが)する……他のものを上回る。
※クオリティ……品質。性質。
※プロセス……過程。

問い

Aさんのグループでは,「これからの社会で大切なこと」について,この文章から説明しようと考え,(10)の段落から,次のようにまとめました。「……」にあてはまる内容を,創造性,智恵,能力の三つのことばをすべて使って,四十字以上,六十字以内になるよう書きなさい。ただし,三つのことばを使う順序は問いません。

情報技術が発達していくこれからの時代においては,私たち人間にとって,…… が大切であり,人間が潜在能力を発揮するために必要である。

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